【93】 間人(たいざ)の蟹                    2006.02.01〜02


 「京都の丹波に、美味い蟹を食べさせるところがあるらしい」と言うと、「行こ、行こ」とすぐに話がまとまった。
 目的地は、京都府京丹後市丹波町間人(たいざ)漁港。間人では、その日に獲れた蟹を「間人ガニ」と称して、客の食膳に供するのだという。鮮度は抜群で、そのために他所では味わえない蟹の風味が口に広がるという。
「間人」と書いて「たいざ」と読むのはなぜか。宿のパンフを読んで初めて解った。「間人」=「たいざ」=「退座」なのだ。
 『6世紀末、大和斑鳩(いかるが)で蘇我氏と物部氏の間に争いが生じ、用命天皇のお后(きさき)で聖徳太子の生母の穴穂部間人(あなほべのはしうど)皇后は、乱を逃れるため、ここ「大浜の里(当時、間人は大浜の里と呼ばれていた。)」に逃れてこられた。
 やがて争いも治まって、皇后は大和の斑鳩に帰られることになった。大浜の里を離れるみぎわ、里の人々のもてなしへの感謝の印に、皇后はこの浜を自分の名を取って「間人(はしうど)村」と名づけられた。
 ところが、大浜の里の人々は、皇后の御名を口にするのは恐れ多いとして、退座された(お帰りになられた)ことにちなみ、「たいざ」と呼ぶようになったとのことである。』


← ピーカンのポカポカ陽気。 高速道路の左右には
 先日来の雪が残っていたけれど…。



 午前10時30分、雪道に備えてスタッドレスタイヤに履き替え出発。お昼を、名阪国道の香芝ICでとったのだけれど、
夕方には蟹のフルコースが待っているから、ここは軽く肉うどん。
 松原JCTから近畿道。中国吹田ICから中国道へ乗り、吉川JCTで舞鶴若狭自動車道へ。このあたりは、道の両側にたくさんの名門ゴルフ場が点在しているところだ。サービスエリアに残る雪
 舞鶴道へ入ってほどなく、西紀SAでコーヒータイム。今日は良い天気でポカポカ陽気だけれど、あたりには先日降った雪が説け残っていて、やはり雪国の風情だ。
 綾部JCで宮津方面へ向い、宮津天橋立ICを降りたのが、午後3時30分。ここから178号線を北上、雪道は大きな道を行かないと危ないからと、このあと312号線を回って482号線に乗り、間人港へ向かう予定であった。県道の傍らの雪
 ところが、昨日・今日と暖かい晴天に恵まれて、丹後市の気温も9℃。日陰には溶け残りの雪が残っていたけれども、日の当たるところは雪の気配など何もない。ましてや道路は全く問題なし。
 そこで178号から県道を通って482号へショートカット。山間の道の両側には雪が積み上げられていたけれど、ここも道路は全く問題なく、午後5時前、間人に着いた。


 港を一回りして、5時30分ごろ宿に入る。まずはひとっ風カニカニカニの足足足呂…、温泉らしい、「泉質…ナトリウム・カルシウム・硫酸塩温泉、泉温…40〜41度」と書かれている。露天風呂から眺めると、暮れていく間人の町並みの向こうに日本海が広がっていた。
 風呂を上がってから、調理場を見学に行った。「今日あがった蟹がたくさん入っていまして、今、蒸し上げています。ご覧になりますか」と言ってもらって、出かけたのである。
 湯気の立ち上る部屋には、蟹茹で上げている調理場、蟹、蟹…がひしめいている。調理する人、蒸し上げる人、選別していく人など、手際よく作業がこなされていく。
 足ばかりが詰められた箱が、5〜6こ積み上げられている。「足が1本でも途中で欠けたり折れたりすると、商品価値がぐっと下がって、値段も安くなるんですよ。それらを詰めた箱です」とのことだが、蟹の味に変わりはない。通常ならばこれで十分…、狙い目である。
 まだ動いている蟹もいて、足に札をつけている。この蟹を捕った漁師の名前が書いてあるとのことだ。



 部屋へ戻ると程なく仲居さんが、「お食事の準備を始めてよろしいでしょうか」と声を掛けに来てくれた。「あっ、お願いします」、いよいよ蟹尽くし料理の始まりである。
 まずは、『蟹刺し』。間人の蟹は今日捕れた蟹を食卓に出すという新鮮さが売り物だが、たとえ活き蟹でも良いものと悪いものの差は歴然とあって、その状態を見るには蟹刺しを食べてみ米粒がぶら下がっているような蟹刺しるのが一番である。
 丹後沖の海でつい先刻まで活きていた蟹は、蟹の身が殻に絡みつく、新鮮な粘りを持っている。関節の部分を持って剥き身をぶら下げ、先端に山葵醤油をチョンとつけて、下からガブリとかぶりつく。身肉が米粒のようにプチプチしていて、ほんのりとした甘みがあった。以前に旅行社の人が、「間人の蟹は大きくて、この蟹を食べるとよその蟹は食べられない」と言っていたが、確かに絡みつくような食感とほのかな甘味は逸品であ鮮度の象徴 生蟹味噌る。
 活き蟹の鮮度のよさを測るもう一品(ひとしな)は『生蟹味噌』。新鮮な蟹味噌は、つややかで黄色がかった色をしている。一匙すくって口に入れると、やはり舌先にほのかな甘さが漂い、続いて蟹味噌独特の風味が口いっぱいに広がって、鼻に抜けていく。まだ味噌の残っている甲羅は、焼き蟹のコンロに乗せておいた。
 それにしても、次々と運ばれてくる料理の、このボリュームはどうだ。
名札をぶら下げている 名門(?)の蟹
あつあつ蟹チリ
 章くんは魚好き。刺身の盛り合わせも追加で頼んだのだが、食べきれるのだろうか。「『セコ蟹(このあたりでは「ぺっこ」とか言うらしい)』もつけてね」と頼んだのだが、「1月10日で漁が終わったのですよ」とのこと。絶品の外子・内子を楽しみにしていたのだが、見果てぬ夢に終わった。
 茹で蟹・焼き蟹・蟹しゃぶ・蟹ちり…食べ始めてから3時間、もうお腹はいっぱいだ。
 「雑炊にしてください」と仲居さんに頼むと、「その前に、これを一口…」と作ってくれたのが『蟹味噌ご飯』。味噌を平らげたあと、焼き蟹のコンロで焼いて甲羅焼きを楽しんだ甲羅をもう一度取り出し、少し味噌を足して焼き上げていく。蟹足の肉とご飯を加えてこんがり焼くと、よい香りがあたり一面に漂い、「蟹味噌ご飯」の出来上がりである。ご飯にからむ、焼き上げた味噌の香ばしさがたまらない。ネギをまぶしていただく。
 雑炊を軽くひとすすり。メロンとアイスクリームのデザートを詰め込むと、もう動けない。実に4時間近く、ただひたすら食べまくっていたわけである。
 飲み物と若干の追加も入れて、料理の料金は1人前が6万5千円。たかがカニを食べるのに、宿泊して7万を越える料金は安くはないが、一度は行かねばならない間人の蟹である。

間人漁港
天橋立



 翌日は、前日の晴天が嘘のような雪模様。冬の日本海、こうでなくっちゃ。やっとスタッドレスタイヤの威力が発揮されるというものだ。

 帰途、天橋立をちょっと見て、舞鶴若狭自動車道から中国道〜近畿道〜名阪自動車道と乗り継いできた。
 

 間人の蟹…、また行きたいかって? 「高っかいなぁ」という驚きを忘れたころに、きっとまた行くことだろう。




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